市人研とは(2019年度活動研究課題より)

1.すべての子どもたちとは

すべての子どもたちとは 言うまでもなくすべての子どもたちです。今 担任しているすべての子どもたちです。学年や学校で関わっている すべての子どもたちです。
クラスに35人の子どもがいるならば どの子もその子なりの課題を抱えていると考えなければなりません。それが家庭に関わることであったり 学校に関わることであったり 自分自身に関わることであったりするでしょう。

例えば学校に関わることの中にも 学習のことであったり 友だちのことであったり その他にも様々あるでしょう。ここで私たちがしなければならないことは 課題の原因をきちんと把握するということです。そして それらの原因を注意深く探っていく中で そこに「差別」や「貧困」等 社会問題が隠れていることを見逃さないようにしなければなりません。

私たちはすべての学校で 「子どものことを知る。そしてその実態からスタートする。」という すべての子どもたちを見過ごさないような取り組みをつくっていくことが 差別や貧困などの社会問題を解決することにつながっていくと考えます。だからこそ「すべての 子 どもたち」なのです。

2.学校が楽しいと思えるためには

子どもたちの姿を通して見たときに毎日学校に楽しく通えるためには以下の 3つのことが大切だと考えます。

(1)友だちがいる

「友だちがいる」ということは「楽しく学校に通える」ための重要な要素の一つです。
そのためにはクラスの中に様々な子がいるということ 一人ひとり違って当たり前だという感性を子どもたちに育てることが重要です。一人ひとり違った生活・個性を持った子どもたちを丁寧につないでいくこと そしてお互いの存在を尊重しながら 信頼で結ばれた関係をつくること それが学級集団づくりです。子どもたちが自分のくらしを語り合え お互いのくらしを知っているという人間関係の上で 単に仲の良い集団ではなく お互いを認め合い 悩み事やつらいことがあったときは支え合える学級集団をめざしていかなければなりません。
そんなクラスであるならば 一 人ひとりの子に居場所があり 友だちがいて毎日楽しく学校に通えるはずです。

(2) 勉強がわかる

「勉強が分かる」ということも 「楽しく学校に通える」ための重要な要素のひとつです。
学校生活の大半を占める授業の中でまず 子どもたち一人ひとりが「わかった」「できるようになった」という達成感や満足感を味わえる授業を私たちが創造することが重要です。授業は教師と子ども そして子ども同士の信頼関係を育む大切な場です。「わかった」「できるようになった」という経験を積み重ね、「もっとがんばろう」「もっとできるようになりたい」という学習意欲へつなげていかなければなりません。子どもたちの「わかった」「できるようになった」という喜びを家庭に伝え、保護者にも同じ視点で子どもを褒めてもらうことも重要です。クラスで安心して学ぶことができ、勉強がわかれば毎日楽しく学校に通えるはずです。

(3)信頼できる先生がいる

「信頼できる先生がいる」ということも「楽しく学校に通える」ための重要な要素の一つです。子どもから信頼される先生になるためには、まず学校の姿だけでなく、生活背景も含めて子どもを知り、理解することから始めなければなりません。そのためにも、クラスの中には様々な子がいるということ、一人ひとり違って当たり前だという意識を私たち自身が持っておかなければなりません。そして、少しずつ子どもたちとつながりをつくっていく必要があります。さらに、信頼される前に、子どもたちを信頼し、活躍する場を意図的に設定し、頑張ったことを認め、評価することが必要です。自分たちのことを信頼してくれる、信頼できる先生がいるならば毎日楽しく学校に通えるはずです。

それでは、子どもたちが毎日楽しく学校に通えるために、私たちは何をしなければならないのでしょうか。

3.すべての子どもたちが毎日楽しく学校に通えるために私たちが行うこと

すべての子どもたちが毎日楽しく学校に通えるために私たちがしなければならないことは次の3つです。

子どもを知る教師の人権感覚を磨くつながりを広げる

(1)子どもを知る

私たちは、子どもたちが自分のくらしを語り合える、そして、お互いのくらしを知っているという人間関係。
その上で単に仲の良い集団ではなく、お互いを認め合い、悩み事やつらいことがあったときは支え合える学級集団。そのような学級集団を目指して学級集団づくりに取り組んできました。それを、「反差別の学級集団づくり」という言葉で表現することもありました。そして、学級集団づくりや授業づくりは、子どもの実態を知ることから始まると考えています。

しかし、私たちは子どもたちの「表面的な部分」だけを捉えて、子どもを知っているつもりになっていないでしょうか。おそらく多くの子どもたちが、学校で見せている姿と家庭での姿は違っているはずです。親や教師などの大人の前での姿と友達同士の中での姿も違うはずです。子どもたちはそれぞれのくらしの中で、いろいろな姿を見せながら生活しています。

最近、子どもの実態を把握する手だての一つとして、客観的データを用いることが多くなりました。例えばQUアンケートは、一人ひとりの子どもの学校生活における満足感や意欲、さらに学級の実態を把握することができます。このQU アンケートを通して、気になる子どもの姿が浮かび上がってくるはずです。学級集団づくりに関する課題が明らかになってくるはずです。しかし、私たちが決して忘れてはいけないことは、日々の子どもの様子を見とり、子どもや保護者から直接聞いたりすることを通して、子どもの実態を把握するということだと思います。

例えば「朝食をほとんど食べない」という子どもがいます。その子がなぜそのような状況なのか、原因をつかむ必要があります。なぜそうなのか原因は一人ひとり違うはずです。しかし、原因を探っていけばそこには家庭の状況や健康問題など、多くの課題が隠れていると思います。さらにその根底には、差別や貧困等の社会問題が隠れているかもしれません。私たちはそこに気づき、目を向けることのできる教師でありたいと思います。特に「低学力」や「不登校」「荒れ」などの姿を見せている、いわゆる厳しい子どもたちの、より具体的な課題をつかみ、それを丁寧に克服していこうとする営みが求められます。そのためには、一口に子どもを知るといっても、子どもの何を知らなければならないのか、子どもたちの姿をどのように見とるのかがとても大切になってきます。

私たちは、どんな 学級であれば子どもたちが安心して楽しい学校生活が送れるのか、どんな教材を使えば子どもたちの日常とつながった授業がつくれるのか、親たちが学校に対してどんな思いをもって登校させているかなど、子どもたちのくらしや育ちをつかみながら、授業や学級集団をつくっていかなければなりません。また、くらしを知ることで、子どもを見る視点が変わり、子どもたちの小さな変化に気づくことができます。その気づきをスタートに、子どもたちとの信頼関係を深めることもできると思います。私たちは子どもたちのくらしや思いを大切にして、教育活動にとりくまなければなりません。

(2)教師の人権感覚を磨く

課題を克服するための実践や取り組みをつくるには、教師自身の姿、つまり教師の人権感覚が重要です。ここで提起されていることは、私たちの普段の言葉や態度などに、私たちの人権感覚そのものが浮き出ているということです。私たち教職員が、子どもたちをひとりの人間として、尊敬すべき存在として関わっているかどうかが問われているのです。私たち教職員よりも確かな人権感覚を持っている子どもたちはたくさんいます。「本当に信頼できる先生なのか」ということを、子どもたちはしっかりと見抜いています。言い換えると、子どもたちが人権感覚を身につけるためには、「人権」というものを「教師が教える」だけではなく、教師自身が人権感覚を高めることが必要なのです。

また、職員室の人権感覚が、そのまま学校・学級の人権感覚になるとよくいわれます。子どもたちにとって教職員の生き方は、教育課程や授業のカリキュラムでは表現されない、隠れたカリキュラムとなっているのです。私たち教職員自身の中に、差別を生み出す土壌がないかをしっかりと確かめ合っていかなければいけません。私たちがめざす学級集団づくりに取り組むためにも、教師の確かな人権感覚は必要不可欠です。私たち教職員が子どもたちの痛みやつらさに気づき、共感できるのか、子どもたちの自尊感情を高める重要な他者になりえるのか、問われるところです。このような人権感覚に満ち溢れた空間を子どもたちと共有するためには、私たち教職員が子どもたちと共に学び合うことを忘れてはいけません。

(3)つながりを広げる

職員室で子どもの姿が話題になっていますか。世代や経験の違いはもちろん、教師自身の価値観も多様化しています。「教育」を掲げた書物も氾濫しています。「多忙化」で子どものことをじっくり話せない実態もあります。またそのことを理由に、じっくり話そうとしていない実態もあるのではないでしょうか。そんな時代だからこそ、逆に目の前の子どもの姿やくらしについて具体的に語り合う必要があります。話題となった子どもや親の姿から気づかせられたり、考えさせられたりすることがたくさんあります。同僚の言葉や実践に自分を振り返ることもあるでしょう。ときには子どもを軸として指摘し合う関係も必要です。

子どもを多面的に見ていくためにも、職員室で語ることを大切にし、語ることを通して、まずは教職員同士の信頼関係を築いていきましょう。しかし、学校だけでは解決できない課題もたくさんあります。だからこそ地域・保護者、社会の様々な関係団体とつながり、子どもを取り巻く大人が協力して、子どもの育ちを支えるネットワークをつくっていきましょう。

すべての子どもたちが、毎日楽しく学校に通えるために、これまで述べてきたこと、これが私たちのめざす人権教育です。

4.子どもの実態からスタートしよう

今の子どもたちの実態はどのようになっているのでしょうか。さまざまな学習会にて学校の子どもの姿を交流する中で、たくさんの厳しい実態が浮かび上がってきたのでその一部を紹介します。

(1)厳しい課題を背負わされている子どもの実態

【小学校の実態】

・2年生。母・妹ふたりとの4人暮らし。母親がうつ傾向で薬を飲んでいるため朝起きれず、育児が十分にできない。みんなで昼過ぎまで寝ていることもよくあり、遅刻や欠席が多い。まじめな性格で登校すると一生懸命課題に取り組んでいるが、遅刻や欠席で学習に参加できていないことや学習道具も揃わないことがあり、学力が厳しくなっている。

・4年生。母・二人の兄・父親が違う二人の妹の6 人家族。朝食は準備されていないことが多く、給食を何度もおかわりする。家族で出かけるときも母親の気分で留守番をさせられることがある。母親からあまりかまってもらえず、保健室で長い髪を結んでもらうことを毎日楽しみにしていた。友達と遊ぶことは好きだがコミュニケーションがうまくとれないためいつもトラブルになり「いじわる」「自分勝手」というレッテルが貼られていた。友達ともめて教室を飛び出すこともあった。

【中学校の実態】

・家庭の状況が不安定になり登校できていない生徒がいる。母親は給料が入ると、先のことを考えずに使ってしまう傾向があり、友人に経済的に依存しその家庭に入り浸っている。生活保護を受けているが、これまでに何度も電気・ガス・水道を止められており、修学旅行も断念している。このような状況が続き、登校意欲もだんだんと薄れ、2 学期以降欠席が続いている。SSW・補導・保護課と連携を取りながら状況を見守っている。

・卒業生から「中退する。」と連絡があった。高校に確認したところ、授業料を納めることができないことが理由だそうである。また、就学支援金の手続きもうまくいかず、遅れたそうである。担任は、様々な支援の情報を提供したが、最終的に退学を決めた。この春高校を卒業した姉の就職は決まっているが、母親は、病気や介護のために仕事を辞め、生活は安定しない。

【高等学校の実態】

・母子家庭。昨年の3月急に離婚。養育費なし。今の住まいでは家賃が高く、経済的に厳しく転居の予定。手続きの都合で夏以降しか児童手当等の請求ができないといわれた。兄は私立高校通信制に通っているが、家計に対して負担をかけていると悩んでいる。本人は学校生活をしっかりおくって安定した大企業へ就職したいと思い頑張っている。成績もトップクラスで生徒会などにも立候補している。

・母子家庭。本人が小学校卒業のころDV を理由に両親が離婚。養育費なし。兄と姉は独立したが、自らの生活が精一杯でほとんど援助はない。本人も兄も部活動をとても頑張っているが、部活動の道具購入で苦労することもあり、顧問の支援が行われている。

・生い立ちが複雑で中学まで児童養護施設で育つ。高校入学後、別の施設にいた異父兄弟とともに、再婚予定の実母と暮らすことになった。入学後まもなく実母の再婚が破棄。再婚予定の人との間に生まれた弟(0 歳)と4 人暮らしが始まる。養育費なし。校納金の滞納、支援金給付金の手続き未完了、奨学金の予約なしで家計状況を心配した担任が本人や母親から家庭環境を聞き取り、給付型の奨学金に支給の申し込みをした。書類の手続きは本人立ち合いの下、担当教員が手伝い、母に確認してもらい押印後提出。無事に採用され校納金に充てることで修学旅行にも行けた。母親の育ちの中で社会的な手続きなどを身に着けることができず、もらえるお金の手続きや家計のやりくりを苦手としている。SSW と面談し公的支援制度につなぐ。

ここに挙げた子どもの実態は、ほんの一例にすぎません。また、このような子どもたちは市内の多くの学校に存在しているのではないでしょうか。そして、これら子どもの姿は、私たちの教育活動に対して多くの課題を突き付けています。

(2)子どもの実態からみえる教育課題

○学級集団づくりについての課題
・差別やいじめを許さない学級集団づくりを行っているか。(反差別の学級集団づくり)
・表面的な仲の良い人間関係にとどまらず、違いを認め合ったり悩みやつらいことがあったときに支え合ったりできる学級集団づくりをおこなっているか。
・日々の生活の中で起こる様々な問題に対して、一人で解決できないことも仲間を信じ、力を合わせれば乗り越えられるという体験をさせているか。
・規則やルールを生活指導という観点からだけでなく、それを守れない子どもの背景を理解した上で、人間関係をつないでいくという視点を持って対応しているか。

○学力保障についての課題
・「低学力」の子どもが、「授業が楽しい」「勉強がわかる」と言える学習過程や支援の手立てを工夫しているか。
・家庭学習を習慣化させるための取り組みをおこなっているか。
・教育内容を軸とした保・幼・小・中の連携した取り組みができているか。

○進路保障についての課題
・子どもの家庭背景や親の思い、進路を阻害している要因を見ようとしているか。
・「就学・修学支援制度」について、教職員が正しく理解し、中学校だけでなく、小学校の早い段階から必要な子どもや保護者等に情報を提供しているか。
・保幼・小・中・高、関係諸機関との連携した取り組みができているか。

○部落問題学習についての課題
・部落問題学習を取り組むにあたって管理職を中心とした校内の研修体制や研修内容の充実がなされているか。
・部落差別をなくすということが賤称語学習の目的であるにも関わらず、賤称語の指導方法にばかり目が向いていないか。
・教職員自身の基礎的、基本的な知識は十分であるか。
・集中人権学習を前年度踏襲で行い、内容が不十分なまま形骸化していないか。
・特定職業従事者としての自覚を持てているか。

5.課題を解決するための取り組みの方向性

では、このような課題を解決するために、私たちは今後どのようなことに取り組んでいく必要があるのでしょうか。

(1)「差別を許さない学級集団づくり」の取り組みを

市人研がめざす学級集団づくりは、「差別を許さない学級集団づくり」です。これは、学力保障の取り組みにおいても、進路保障の取り組みにおいてもすべての教育活動の根底にすわるものだと考えます。「差別を許さない学級集団づくり」は、単に仲の良い集団ではなく、子どもが自分のくらしを語り合い、お互いを認め合い、悩み事やつらいことがあったときは支え合えるというようなくらしでつながるっていることが土台になります。つまり、子どもたちが、相手のよさだけでなく、「きついこと」「苦しいこと」「悩んでいること」「嬉しいこと」等を語り合える関係、相手をありのままに認め合える関係、支え合える関係、そしておかしいことはおかしいと指摘し合える関係をつくり、それを土台に差別や偏見を許さない集団をつくることが大切です。

そうした「差別を許さない学級集団づくり」を進めるにあたっては、下記に示す「知る」「つなぐ」の2つのキーワードが重要になってきます。

家庭訪問を原点に、子どもや保護者のくらしや思いをまるごと「知る(理解する)」

そこで大切なのが、「子どもを知る」ということです。「知る」ことが重要なのは教育に限ったことではありません。医療現場においても、患者さんがお腹が痛いからといきなり手術をしたり、薬を処方したりする医師はいません。本人や家族から問診をしたり診察をしたりして、実態を知った上で、治療方法を決めるはずです。これは、企業やスポーツの世界でも同様で、実態を知るということは大変重要なことです。そのようなことを考えると、実態を知るということは、教育に限らず多くの仕事にとっても原点になるのではないでしょうか。そして私たち教師にとっては、実態を知るということは、「子どもを知る」ということになるのです。

そんな「子どもを知る」手立てとして、私たちは家庭訪問の重要性を提起してきました。家庭訪問を通して子どもがどのような家庭環境で生活しているのか知ることができます。そして、家庭訪問を繰り返す中で、少しずつ子どもや保護者とつながることができます。子どもとつながり保護者とつながり合う中で、頻繁にトラブルを起こす子どもがいるならば、なぜその子がトラブルを起こすのか、本当の原因や理由、子どもの本音が聞けたり、保護者の子どもに対する熱い思いを聞いたりすることができます。そのことは、私たちの子どもたちを見る視点を変え、子どもたちとの信頼関係を深めることにもつながります。もちろん、悪いことをしたことに対してはしっかりと叱ることは重要ですが、そういった子どものたち奥底にある要因を知った上で、私たちは学級集団づくりに取り組まなくてはならないのではないでしょうか。そんな「子どもや保護者のくらしや思いをまるごと知る」ための家庭訪問に取り組んでいきましょう。

子ども同士、子どもと保護者、保護者同士を「つなぐ」

そして、知ったことをもとに、次はさまざまな手法も活用しながら、子ども同士、子どもと保護者、保護者同士を丁寧につないでいきます。その時に大切なことが、「くらしでつなぐ」ということです。子どもたちにとって、安心・安全な空間とはきっと「きついこと」「苦しいこと」「悩んでいること」「嬉しいこと」等を口に出しても大丈夫な空間だと思います。「厳しい課題を背負わされている子ども」にとってはなおさらです。一人ひとりが、内に秘めている痛みやつらさ、喜びを語り、そしてそこに共感してくれる仲間がいると感じられた時こそ、人とのつながりを感じることができるのだと思うのです。このことは、「人権教育の指導方法等の在り方について[第三次とりまとめ]」にも、いじめ問題を例に「隠れたカリキュラム」として明記されています。

そしてこのような、人との温かいつながりを感じられる雰囲気が浸透する学級で生活することが、つながりを生きる力にする子どもたちを育てることになるのです。すべての学級で「差別を許さない学級集団づくり」をめざし取り組んでいきましょう。

(2)「低学力」の子どもを中心に据えた学力保障の取り組みを

学力保障の目的は、差別の連鎖を断ち切るために、差別を見抜き許さない確かな人権認識と豊かな人権感覚、さらに教科の学習理解力を合わせもった力を身につけさせることです。

「低学力」の子どもを中心にしたわかる授業の創造

学力保障に取り組む上で、まず重要なのは、「低学力」の子どもを中心にした「わかる授業」の創造です。「わかる授業」を創造するためには、まず「その子がどこで、何に躓いているのか」「学力が定着しにくいのはどうしてなのか」等、原因を明らかにしなければなりません。そのためにも家庭訪問を通して、その子の生活も含めて知ることが必要です。その上で、どんな教材を使い、どのような学習活動をしくめば、その子の日常とつながった授業をつくることができるのか、学習意欲を高めるには、どんな声かけやしかけをすればよいのか等を考えて、授業づくりをすることが重要です。そのような活動が「低学力」の子どもを中心にした「わかる授業」につながると考えます。また、その子の授業での姿を通して、「みんなにとってわかる授業になっているのか」「みんなの思いを大切にした授業になっているのか」という自分の授業を検証することもできます。

家庭学習を習慣化させるための保護者との連携

学力保障を進めていくためにも、家庭学習の習慣化はとても大切です。しかし、低学力の子どもたちを見ると、家庭学習が定着してない子どもたちが多くいます。そこでまず、家庭学習が定着できない原因を探る必要があります。その結果、宿題の内容が難しくて分からないという子どもの実態も考えられます。その場合は、子どもの実態にあったものに改善していくということも考えなければなりません。
一方で、家庭に学習できる環境がなかったり、保護者が家庭学習の重要性を十分認識できてなかったりする場合もあります。そんな場合は、家庭訪問など保護者の思いや願いを聞く機会をつくり、保護者との信頼関係を築いた上で、保護者に家庭学習の重要性を理解していただき、子どもたちが家庭学習をするための声かけや環境づくりに協力していただくよう少しずつ働きかける必要があります。そして協力していただいた保護者に、感謝を伝えると共に、子どもたちの頑張りや努力する姿を家庭に伝え、同じ視点で褒めてもらうことが、子どもの学習意欲や自尊感情を高めることにつながっていきます。
昨年度から市教委主催で、市内の全144 校において「ふれあい学び舎事業」を展開しています。そこで、低学力の子どもが参加するように子どもや保護者に積極的に働きかけて、活用していくことも有効な手段であると考えます。

乳幼児教育と小学校低学年とをつなぐ具体的な教育内容での連携

子どもの学力の土台づくりには、乳幼児期の基本的な生活習慣や生活体験、保護者の養育力が大きく影響すると言われています。だからこそ、教育内容における保・幼・小の連携を進めていくことが重要であると考えます。そこで、小学校の教師は、その子がどんな環境で育ち、どのような体験や学びをした上で入学してくるのかを、保育所/園や幼稚園の先生からも詳しく聞き、そのことを1年生で授業を行う際の教材研究や指導方法の改善に反映させることが重要です。また、小学校での生活習慣や学力保障の課題を保育所/園や幼稚園の先生にも知ってもらうことも必要ではないでしょうか。小学校における生活習慣や学力保障等の課題を共有することで保育・教育内容に活かしてもらうこともできます。さらに、保育所/園・幼稚園の頃から保護者に対し啓発してもらうこともできます。そのことが、子どもたちの豊かな体づくりや体験、そして学力へもつながっていくと考えます。
「低学力」克服のためには、このような乳幼児教育と学校教育、特に小学校低学年における具体的な教育内容での連携が急務です。現状の保幼小連絡会のさらなる充実を進め、協働して子どもたちの学力保障の取り組みをつくっていきましょう。

(3)すべての子どもが将来を切り拓き、自己実現するための進路保障の取り組みを

今、すべての子どもたちの進路を保障するためには、家庭の経済的背景により、進学を諦めようとしている子どもや保護者に対して、奨学制度や社会福祉制度等、在籍時に受けられる「就学・修学支援制度」を早い段階から周知することが不可欠です。

教師が「就学・修学支援制度」について理解し、必要とする子どもや保護者に対し、早い段階から確実に情報を届ける

経済的に厳しい家庭に「就学・修学支援制度」を伝えるためには、まず教師自身がこれら制度について理解することが必要です。そのために様々な資料を活用し、すべての教職員が「就学・修学支援制度」について理解することからはじめましょう。
そして、制度を必要とする子どもたちや保護者に対し、小学校低学年から確実に情報を届けるようにすることが重要です。子どもがさまざまな「就学・修学支援制度」があるということを知ることで、少しでも進路への不安をなくし、学習意欲を高めることにもつながります。また、保護者には早い段階から進学のための備え(貯蓄)を意識付けることにもなります。そうすることで、経済的な理由で進学を諦める子どもを少しでも減らし、子どもたちが進路選択の幅を広げ、将来へ展望を持って意欲的に学校生活を送ることができるようになると考えます。
このように保幼・小・中・高が連携した取り組みが重要です。様々な家庭背景を持ち、保護者の価値観も多様化するなか、すべての子どもたちが自らの手で、将来を切り拓き、自己実現できるように、関係諸機関とも連携した進路保障に取り組んでいきましょう。

(4)部落問題学習の充実を

私たちがめざす部落問題学習とは、「差別を見抜き」「差別を許さず」、そして「差別をなくそう」と主体的に考え、行動する子どもを育成していく学習です。

すべての小学校で、賤称語の学習に取り組む

子どもたちは、現代の情報化社会において、否応なしに様々な情報に触れる生活をしています。そのような社会で生活している子どもたちは、部落差別に関わる間違った情報に出会う可能性が十分にあります。様々な情報と出会ったときに、正しい判断ができることが差別のない社会をつくっていく上で重要になります。市人研はこの間、部落問題学習を通して正しい知識と認識を身に付けさせることを提起し続けてきました。とりわけ、部落差別をなくすために賤称語を用いた部落問題学習の重要性を訴えてきました。
そのような中で、賤称語の指導について教育委員会は、「平成28 年度学校教育指導の重点」において、「小学校における賤称語指導の徹底」を明記しています。また教育委員会が、平成29 年度より人権読本『ぬくもり』第3版小学校5・6年生に掲載されている「よき日のために」を、必ず指導すべき題材(必修教材)として位置づけました。
このことを踏まえて、各小学校においては、賤称語学習の目的や内容について全職員で共通理解し、差別をなくすための取り組みとして共通認識のもと指導していきましょう。

中学校における部落問題学習の充実

中学校においては、社会科の授業の中で、正しい知識を学ばせるという視点から、資料や授業展開を見直すとともに、小学校での部落問題学習を踏まえた上で指導の充実を図らなければなりません。昨年度発行された、中学校版人権読本『ぬくもり』第3 版の中に、「水平社はかくして生まれた」という教材が掲載されています。まずは教師が、「人権読本『ぬくもり』の研究と指導」をしっかりと読み、その内容を理解することが重要です。
また、「集中人権学習」に関しては、子どもたちにどんな知識や人権感覚を身に付けさせたいかを明らかにした上で、これまでの学習展開を見直したり、現代の課題に迫る教材の開発をしたりする必要があります。これら、社会科の歴史学習と「集中人権学習」のそれぞれの目的と役割を明らかにし、教師集団が共通した思いや認識を持って学校全体で取り組んでいくことが大切です。

教職員の部落問題に関する科学的認識の向上

これらの取り組みをするにあたっては、教師自身が特定職業従事者としての立場を自覚し、部落問題について確固とした知識と認識を持つことが重要です。そのために、校内や校外の研修に目的を持って臨むと共に、市人研の学習会にも積極的に参加し、教職員一人ひとりが部落問題に関する科学的認識を高めていくことが必要不可欠です。
昨年度福岡市で6件の賤称語を使った差別事象が起こりました。市人研ではこの事実を深刻に受け止め、そこから浮かび上がってきた教育課題や賤称語学習の在り方について、現時点での分析をもとに以下のように提起します。今後、市教委とも連携し、賤称語学習を含む部落問題学習の在り方についてさらに研究していきます。そして、そのことは、いじめやガイジ発言等、その他の人権問題の解決にもつながると確信しています。

賤称語発言から見えてくる課題及び今後の賤称語学習の在り方

(1)賤称語発言から見えてくる課題
〇賤称語発言は、授業後間もない時に起きている。
〇子どもの発言は全てマイナスの意味で使われている。
〇部落問題が今の社会問題であることに繋がっていない。

(2)課題から推測される原因
〇教師が何のために部落問題学習を行うのか、目的を共有できていない。さらに、賤称語学習に至った経緯や思いを認識していない。
〇指導者の認識の中に、賤称語の奥にあるはずの「人」が不在であり、また、今ある部落差別を認識し、無くさなくてはいけないという自覚が足りない。
〇授業の中で賤称語学習を行う際、教師の言葉や行動に部落問題に対するマイナスイメージが表れている。さらに、賤称語学習が禁句指導になっている。

(例)
・授業中に「エタ身分」という言葉を黒板に書きながらも、「とても差別的な言葉なので」という理由で直ぐに消してしまう。⇒子どもは違和感を持つ
・「とても差別的な言葉だから使ってはいけないよね。これからは授業の中でも使わないようにします。」
⇒こんな時だけ禁句指導
〇教師のいつもと違う言葉や行動を察知して、子どもたちは家庭のパソコンやスマホ等を使って賤称語や部落などの言葉を調べ、インターネットを通じてマイナスの情報を得ている。
〇塾や参考書で、中世政治起源説の考えを学んでいる可能性があり、そこからマイナスイメージにつながっている。

(3)課題を解決するために

①部落問題学習・賤称語学習の在り方を考える
〇なぜ賤称語学習を行うのか、すべての教師が賤称語学習を行うようになった経緯及び目的を共有し、部落差別に関する科学的認識を深める。
〇現在行われている部落問題学習を見直すとともに、その教材ができた経緯と目的を共有する。
〇賤称語学習を行う授業について、当該学年や一部の教師まかせにするのではなく、すべての教職員で指導場面の検討を行い、学校全体で指導内容を作っていくようにする。
〇賤称語学習を行うことを前提とした年間計画を年度当初に作成する。
〇教師が普段通りの態度で賤称語学習を行い、禁句指導にならないようにする。
〇他の学習や教科では、教えたことを黒板に書いて直ぐにそれを消したり、それ以降の学習で使わないということはないので、賤称語についてもその後の授業の中で必要がある場合は歴史用語として使用する。
〇差別発言があったときは、子どもからその発言の背景について十分に聞き取りを行い、発言に至った原因や課題を明らかにする。
※なぜ授業で学んだことと違うマイナスの言葉として使ったのか、その背景を必ず確認する。
〇部落問題学習に関する授業内容や授業方法について、さらに綿密な小中連携が必要である。

②学校総体の人権教育推進体制の構築
〇校長がリーダーシップを発揮する。(3 つの柱の徹底)
〇差別を許さない学級集団づくりや学校づくりに全職員で取り組む。
〇継続した系統的・計画的な取り組みをつくり、低学年から子どもたちの人権感覚を育てていく。その取り組みがいじめやガイジ発言をなくしていく取り組み等、他の人権問題解決にもつながる。
〇教師には、部落の子どもをはじめ、マイノリティの子どもが目の前に必ずいるという認識が必要である。

③市教委の役割に期待すること
〇福岡市ではなぜ賤称語学習を行うのか、その目的や経緯が正しく伝わるようにきちんと教職員に説明する。
〇差別事象の背景を詳細に分析し、学校現場に提起する。
〇社会科歴史学習指導事例集を改定する。
〇差別事象が増えている現状を踏まえ、「人権を尊重し、人の多様性を認め合うまち」の実現に向けた校長のリーダーシップの重要性と人権教育を着実に推進するための「3つの柱」を各学校現場に徹底させる。

6.今年度の具体的な活動

以上述べたことを具現化するため、今年度、次のような活動を行っていきます。

(1) 研究推進委員会

「学級集団づくり」「学力保障」「保幼小連携」「進路保障」「部落問題学習」について、小・中・高等学校の教員が協働して研究・実践を行います。子どもたちが背負わされている課題を共有し、課題解決に向けての取り組みや異校種間で連携した教育内容や研究体制のあり方について研究していきます。

(2)各種学習会

私たちのめざす人権教育を具現化し、各学校での実践につなぐ手法を広く発信していくために、各種学習会を充実させていきます。

○春期講座
○人権教育基礎講座
・学級集団づくり編(4回)・部落問題学習編(4回)
○夏期研究集会(8 月1 日)
○福岡市人権のまちづくり推進交流会(11 月17 日)
○福岡市人権教育実践交流会(12 月25 日)
その他、「ホームページ」「メルマガ」「機関紙『アクセス』」等でも、最新の情報を発信していきますので、是非ご覧いただき、各学校での人権教育の推進に活かしていただきたいと思います。

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教材集のごあんない

福岡市人権教育研究会

〒810-0001福岡市中央区天神1-10-1市役所北別館3階

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